幻想水滸伝Ⅳパロ―Ⅰ

三日月達が傭兵団を放逐されてから2日、しばらく海を漂い、そろそろ食料も減ってきたな……と深い霧の中で天を仰いでいると、突然目の前に現れた通りがかりの大きな商船と衝突寸前!というアクシデントに見舞われました。

「前見ろよ!」とユージンが怒鳴りますが、オルガが宥めます。
悪いのはどちらということより、この船にはどうしたって太刀打ちできません。

「気を付けろ!」甲板から怒鳴りこんでくる青い髪の男と、
「申し訳ない」事情を聞きたいから乗船してくれと言う金髪の男。

実はこの船、商船とは名ばかりで、軍国ギャラルホルンの船でした。
しかし商船と偽って周辺海域に偵察任務に来ていたため、最初から荒事にする気はないようです。

三日月達の背格好を見て、
「難波した商人だと言うが、どうせ家出して遭難した薄汚いガキどもだろう」
と蔑む青い髪の方、ガエリオ。
乗船した彼らに衝突しかけたことを非難したところ、小柄な三日月にいきなり首を締め上げられたこともあり、敵意を隠すつもりは微塵もありません。

その一方、
「近海の島はあそこくらいか…」
流刑者ではないかと勘づくものの、三日月の目に罪人以外の何か力を感じるものがあり、ガエリオを宥めるだけで何も言わないマクギリス。

どちらもギャラルホルンの軍人でした。

 

 

「せっかくこう言ってくれてるんだから飯くらい貰おうぜ」

大きな船に安堵しているシノとユージン。
しかしオルガの目は厳しいままで、三日月も警戒を解いていません。
この海域にはこんな大きな商船がわざわざ来るような利益が上がる島はないはずです。

「どうもきな臭えな…」
「さっきのチョコの連中、探ろうか?オルガ」

名乗られた名前より、
「交易品で申し訳ないが…」
とマクギリスから差し出されたチョコレートのことしか記憶にない三日月。
興味がないこと以外にはこの調子ですが、何かあった時の対処力には長けています。
何より他3人はただでさえ大柄で目立つので、小柄な三日月が先ほどの2人に探りを入れてみることにしました。


甲板にほど近い部屋の中から彼らの気配を感じ取り、話し声に耳をすまします。

「――――マクギリス、さっきの態度を見ただろう!?
手癖の悪い賊に決まっている、何か荒らされる前に拘束して白状させた方が」

「落ち着けガエリオ、俺達はあくまで商人ということになっているんだぞ。
ここは商人らしく振舞っておけ。
それに彼らは――……誰だ」

「!」

気配を消していたつもりの三日月でしたが、マクギリスが気づいたようです。

悠長にしている時間はありません。
話から察すると、やはりこの船は怪しい。自分と仲間に危害を加えるかもしれない、それをオルガ達に伝えて今すぐ脱出しようと、三日月は走り始めました。

仲間と合流はできましたが、一足遅かったようです。
ガエリオとマクギリスが背後に迫ります。

「どうするオルガ……!」
「逃げるしかねえだろこれ!」
「……オルガ」

戦闘は避けられそうにはないけれど、三日月達にはまともな武器がありませんでした。
剣は当然傭兵団からの配給品の安物で、街で紋章を宿してくる暇もなかったのです。武器も魔法もロクに使えません。

4人で必死に連携して戦う中、三日月は相手の力量を値踏みします。
オルガは目配せで、隙を見て逃げるぞと指示を出しています。
が、その隙が見当たりません。

正確に言うと、隙はガエリオの方にあります。
三日月が撹乱すれば逃げる余裕はありそうです。
でもそれをすぐにマクギリスが封じてしまう、その繰り返しでした。

「…………」

しかしふと、三日月の強い切り込みをマクギリスがタイミングを合わせて受け流す……と思われた瞬間、反動で後ろへ数歩のけ反るようにして身体を崩し、まるで「行け」と言わんばかりの隙を見せました。
その一瞬で、三日月は横で戦っていたガエリオの剣を下から払いあげ、マクギリスの方へガエリオを蹴り飛ばします。
マクギリスがガエリオを庇うその数秒の間に三日月達は全員で甲板へ走り、自分達が乗ってきた小舟で間一髪、漕ぎ出すことに成功しました。

背後に、ガエリオが悔しがる声と、
「始末するほどの相手ではない」と諫めるマクギリスの声を聞きながら……。

ガエリオが呼ぶ名を聞いて、オルガはふと、傭兵団で聞いた噂を思い出しました。

軍国ギャラルホルンに、若くして『海神の申し子』という二つ名を持つ天才軍人がいると。

出会ったら絶対に戦うな。
確かその名前が―――――

「……マジかよ。あそこに戻ることがあったら、
マクギリスとやりあって生き残ったって自慢しねえとな」

その話題でシノやユージン、オルガが盛り上がる中、三日月の関心は既にあの船にはありませんでした。

この船が明日はどこへ流れ着くのか、オルガはどうするつもりなのか。
そんなことを考えながら、静かで心地よい波の音を聞き、日が昇り始める直前の薄暗がりで動く波を楽しそうに眺めているのでした。

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坏乃

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