幻想水滸伝Ⅳパロ―Ⅶ

 

真夜中のクリュセの夜を照らした罰の紋章の禍々しい魔法の光は、その場の音を全て連れて消えていったのでしょうか。
クリュセの島で鳴り響いていた戦いの声までが止まりました。

三日月やオルガを乗せた船が、ざざ……と波を分けて進んでいく音が不気味に思えるほど、オルガにとっては自分の心臓の音ですらうるさく感じます。
意識を失ってぐったりとする三日月を抱えたオルガは、
うるさい!敵に、あいつに聞こえる前に、もっと速く動け!
そう願いました。

三日月が命を削って切り開いてくれたのです、このまま無事にこの海を離れること、願っていたのはただ1つ。
しかし、目の前で部下の命を船ごと奪われたガエリオがそれを許すはずはありません。

ガエリオが彼の船団の中で唯一難を逃れた1隻に救助され、甲板で呆然と座りつくしていたのは1分ほどだけで、自分の船が在った海を口を開けたままじっ……と眺めていましたが、部下の仇を乗せた船が離れていく後ろ姿をゆっくりと目で追い、ふらりと立ち上がり、先ほどまでの静けさを切り裂く叫びを上げました。

「貴様らぁああああ!よくも、よくもアインを!!」

船を無理やり方向転換させ、三日月達の船に追いつかんと全速力で追っていきます。

オルガも全速の指示は出していますが、クリュセのその船はとても大きく、スピードが上がり始めるには時間が必要で、
あっという間にガエリオに追いつかれてしまいました。

自分の剣を握るオルガですが、そんなことにガエリオは目も向けず、
自分の目から涙が零れ落ちることにも気を留めず、
怒りに目を血走らせながら、力が入り筋が浮かび上がった右手を乱暴に構えます。

彼の周りの空気が、ぱり……っ!と震え、眩い光と雷に包まれました。

「―――ッ天雷!!!」

三日月とその船の破壊だけを願うガエリオが、雷鳴の紋章の最大魔法を放ちます!

通常の雷の紋章より更に上位の力を誇る雷鳴の紋章、それが繰り出す最強の雷は、鳥が羽根を広げるように、ばさっ……と素早く広がったと思えば、三日月に目がけて降り注ぎました。

もうこれは何をしてもダメだ!
身体で感じ取ったオルガは、咄嗟に三日月を自分の身体全体で庇います。
絶対に助からないのだとしても、もしかしたら、せめて三日月だけでも助からないだろうか、そんなありえない奇跡を無意識に願ったのでした。

そんな時

 

「……守りの、天蓋……!」

海に響く大きな雷の音の中で別の声が静かに、けれどもはっきりと響きます。

目を瞑り5秒経っても痛みを感じないオルガが、「なんだ……?」と三日月の身体を抱えたまま恐る恐る目を開けると、
淡い黄緑色の優しい光が船全体を覆っていました。

「土の、魔法……?いやそんなはずはねえ、この船に土の紋章を持ったヤツがいたとしても、
こんな広い防御なんか……」

オルガが呆然としていると、三日月達の船の左前方、そちらから見たことのある船が素早く近づいてくるではありませんか。

「ほらー!!アンタ達何やってんの!!逃げるよ!!」

その船の先端から叫んでいるのは、あのタービンズのラフタです。
彼女の横にはアジーが立ち、その右手にはオルガ達を護る光と同じ輝きが見えました。
彼女は、左手で右手を押さえながら全力で魔法を放っているようです。
感情を表に出さない彼女も、その顔には必死さが滲んでいます。

「あのさラフタ、早く逃がして……!」

「分かってるって!ちょっと聞いてるのオルガ、アジーの大地の紋章の盾もいつまでも持たないんだってば!!
とりあえずアタシ達が来た方向に急いで進みなさい!!」

「タービンズの……!わかった!!」

オルガは甲板の連絡用パイプから操舵室に素早く指示を出し、タービンズの船の横を全速力で抜き去っていきます。

「逃がすか!!」
ガエリオは自分の邪魔をする盾を力ずくで、今度は鋭い刃物のような風の魔法で切り裂こうとしましたが、
「させないよ……!」
魔法の壁にいくつも亀裂が入ったものの、これもアジーはなんとか防ぎきりました。
しかし、もう次はないでしょう。

「ラフタ!」

「分かってる、急いで抜けるから!」

そうしてクリュセの大型船が十分に離れたのを確認し、ラフタ達も素早く夜の海を進んでいきます。
さすがは機動力を誇るタービンズの船、ギャラルホルンの追撃を許さず、部下に制止されながらも届かない魔法を放ち続けるガエリオに背を向け、クリュセを離れていきました。

離れていく島の戦の音は小さくなっていきますが、真夜中の闇を明るく照らす火の手はずっと見えていました。

オルガ達に追いついたラフタは、止まることなく進みながら行き先を指示します。
それは彼女達の本拠地、群島の外れに佇む海賊島でした。

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坏乃

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