幻想水滸伝Ⅳパロ―Ⅷ

クリュセから脱出した兵士や三日月達が本拠地とする帆船は、5層構造の甲板を備える大型船です。
ギャラルホルンの夜襲から逃げ延びタービンズに身を寄せるまで、三日月やオルガはじっくりとその中を見ることはできなかったのですが、落ち着いてから改めて見て回ると、そこはまるで1つの街のようでした。

海と空に面した広い表の甲板から一歩中に入ると、吹き抜けの2階建てのサロンが広がり、そこはバーカウンターのような喫茶スペースまで備え、座り心地の良さそうなソファもたくさんありました。
クリュセに滞在していた頃に三日月達が足を踏み入れたのはこのサロンと、内部甲板第1層の部屋だけだったようです。
外の甲板からサロンへ入るドアとは反対側に、居住区などを含めたエリアとなっている内側の方へ入るドアがあります。

上から階段で下りていく構造で、三日月とオルガは何かあったらすぐに外へ出られるよう、一番外に近い第1層の部屋2つに住み着いています。
船を預かるオルガがクーデリアにこの船を引き渡す日が来たら、その部屋は恐らく司令塔となる人物が滞在するのではないでしょうか。クローゼットや書斎机まである立派な個室を初めて眺めた日に、オルガはそう思いました。

第2層には作戦室、その下の第3層には、小さな区画が立ち並ぶ施設街のような空間が広がります。
クリュセから共に脱出した雪之丞は、この第3層で鍛冶屋を構えるようです。
第4層と第5層にはたくさんの個室が並び、既に何人かは自分の部屋を決めていました。
施設街以外にも色々な施設があるようですが、それはいつか使うべき人材が船に乗り込んだ時に機能していくのでしょう。

人魚のアトラは、本拠地の中に水槽を入れてもらって過ごしていましたが、最近はアクセサリーを作る仕事を始めたようです。
第5層の個室に水槽付きの店を構えた際には、三日月は手持ちの素材を預け、素早さが上がる風の加護を受けたアミュレット、お守りを作ってもらいました。

 

タービンズの海賊島を出発したクリュセの船は、群島を回りながら少しずつ、ギャラルホルンに対抗するための人材を船に増やしています。
本当はこういった目的には、参謀というか、戦略上の舵を取る人材が必要なのでしょうが、ぴったりな人物には誰も心当たりがありません。

しかし、クリュセから共に脱出したフミタンはクーデリアの意志と考えを皆に伝えながら、オルガの指示に従うようにと兵士や仲間を見事にまとめ上げ、どの島から訪問すればよいかアドバイスをくれるなど、十分に軍師のような役割を担ってくれていました。

船に増えた人々のうち、ある者は施設街で饅頭屋を開き、ある者は腕に覚えがある格闘家で訓練場を開く。
三日月が気に入った者、オルガが是非にと勧誘した者、理由もその才能も様々。
その多様な才能と同じく、クーデリアから預かった金印にひれ伏して協力を約束する島、三日月の左手に宿る罰の紋章を拝んで協力する島、群島諸島は一筋縄ではいかないような主義主張を持つ長たちが治める島の集まりでした。

 

「まあそりゃね、なんとか諸島ってはっきり名前がついてない理由、何となく分かるでしょ?」

本拠地船にはタービンズからラフタとアジーも乗り込んでいました。
外の甲板でオルガと3人で話しています。

「言われてみればそうか。俺達の傭兵団があるのは群島とほとんど行き来がない辺境の方だから、考えたこともなかったんだよな」

オルガは納得したように言いました。
人間の集落であっても海賊から王族まで統治制度はバラバラ、人間嫌いのエルフの島、人間の言葉をしゃべる猫族の島……。
そんな島がいくつも存在すれば相性の悪い島同士もあるようですが、ギャラルホルンのような侵略戦争は滅多に起こらず、
不思議な共存を保っているようです。
クーデリアが群島の自由や文化を誇らしげに語っていた理由が、今ならオルガにも少し分かる気がしました。

「けど、ほらどこだっけアジー。三日月達の傭兵団がある島」

ラフタの問いかけに、アジーは「ラズリル」と答えます。

「そーそー。あそこさあ……さっき砂糖が高騰してるって島に砂糖売りつけようって交易所寄ったじゃん?
そこであんまよくない噂聞いてさ~」

「噂?」

ラフタが不穏な言葉を口にしたので、すかさずオルガが口を挟みました。

「うーん……隠しても仕方ないしアンタがボスだし、こういうの気遣っても仕方ないか。
ここからずーっと北の方にあるギャラルホルンが群島攻めするなら遠征になるでしょ。
近くに拠点があったら楽じゃん?……だから、次に狙うならラズリルだろうし、そしたらビビったやつらがギャラルホルンに寝返るんじゃないかって、ね」

「……」オルガは一息のみこんだ後、頭を掻きながら「あそこのクソ領主も傭兵団の大人連中も、やりかねないヤツの顔なんて腐るほど思いつくぜ」と吐き捨てました。

「ギャラルホルンの偵察船をあの辺で見たっていう噂だけだから、まだ判断はできない……けど、群島と違ってラズリルの近くにあるのはせいぜい小さい島1つだろ。
あり得ない話じゃない」
静かにアジーが事実を告げると、少しの間、皆は黙ってしまいました。

その中で、一番先に明るく口を開くのはラフタです。
「オルガ、あんたがアタシ達タービンズを味方にして傭兵団に戻りたいワケはなんだっけ?
あれよね、本当は罰の紋章に食われただけなのに、三日月がそこの団長を殺したって濡れ衣を晴らすっていうやつ」

「ああ。ついでに、あそこの連中を引き入れられれば、クリュセの奪還戦の時にも役に立つしな」

「じゃないと手貸してるアタシらだって困るっての。アンタ達の古巣も腐っても傭兵団なんでしょ?そう簡単にやられないんじゃない」

「……焦るわけにはいかねえってことくらい、分かってるけどよ」
そう唸るオルガは頭を掻きながら、
「あの海域で俺らみたいに孤児になったチビ達もいるだろ、ただでさえ島の連中や島育ちの傭兵連中からの扱いはよくねえからな……」
そこへギャラルホルンまで来たら……と呟いて空を仰ぎました。

「……そっちも色々あるのね。ま、どう動くにしたってまず片づけなきゃなんないのはあれでしょ」

「あのしつこいヤツどうにかしてよね」とラフタがうんざりと指を指したのは海の真ん中。

そこでは、小舟の上で三日月が戦っていました。

その向こう側の少し離れた場所で待機するのは……ギャラルホルンの小型の軍船です。
小舟の上で三日月と一騎打ちをしているのはあのガエリオ。
クリュセの脱出時に三日月が罰の紋章を使ったことで部下の命を失った、ギャラルホルンの一部隊の主でしたか。

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坏乃

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