幻想水滸伝Ⅳパロ―Ⅰ

その世界の海図を広げると、南の果ての果てに印がつけられる小さな島国諸島。
その中では大きい部類に入る島の1つに、彼はいました。

傭兵団訓練兵の三日月。

訓練兵を卒業したどの正規兵よりも、剣を持ち戦う才能やセンスがありましたが、海へ捨てられていた孤児として傭兵団に拾われた境遇から常に差別され、行く日も来る日もつまらない、あるいは誰もやりたがらない仕事ばかりをあてがわれています。

しかし似たような境遇の仲間と共に雑用や鍛練をこなす三日月に、不幸だと嘆いたり自分の境遇を呪う気持ちは全くありません。
海戦の訓練や傭兵の見習い仕事で海に出るのが何より好きで、暇があれば波の音を聞きに海辺に通うのでした。

卒業したらもっと海に出られる。
いつかたどり着く自分だけの居場所はきっとそこにある。
彼が想う殆どは、同じ境遇の仲間のことと海へのその想い。

ようやく迎えた卒業の日もまた雑用を言いつけられ、お祝いの宴にもろくに参参加できませんでしたが、明日が待ち遠しくてなりません。

 

その日、訓練兵を卒業して三日月が初めて命令されたのは、
近くの島へ向かう商船の護衛でした。
訓練兵時代と大差ない、面倒な雑用のようなもの……
と同じく卒業したての皆が辟易していると、途中で海賊が襲われてしまいます。

その周辺では名の知れたテイワズの傘下の1つだと、一緒に船に乗っていた仲間が口にするのを三日月は聞きました。
船団を巧みに操り襲ってくる首領の船、そこで指揮をとる黒髪の男がボスだと遠目にも分かりますが、名前までは三日月の記憶には残りませんでした。

真っ先に前に出る三日月の白兵戦やオルガ達の大胆な操舵によって、襲ってきた海賊船に近付いては切り込み離れ……を繰り返し、乗り込んできた海賊達は首領と思われる男を残すのみとなりました。

彼を数人で取り囲むと、観念したのかと思うほどがっくりと首を傾け……
次の瞬間その左手を徐に空にかざします。

「何……?」

 

三日月の背筋が凍ったその時、空に不気味な光が放たれたかと思いきや、仲間達が瞬時に、次々と倒れ始めました。三日月が持ち前の素早さでかわし続け、味方が随分減ったなと周囲を見渡した時、ようやく光が止まります。

海賊の男はというと、彼自身も息も絶え絶えといった様子で苦しんでいました。
止めを刺そうと三日月が近づこうと一歩踏み出すより前に、その男からまた光が飛び出すのです。今度は塊のような赤黒い光。

ちょうどその時

「何を手こずっているお前達!」

知らせを聞いた傭兵団の団長がやってきました。

三日月が光に身構えていましたが、『それ』はその団長に吸い込まれていきます。光を放った海賊の方を見ると、その身体は灰になって消えていきました。

 

その不気味な出来事からほどなく、三日月達が本拠地に戻るとすぐに、残党と思われる海賊が傭兵団の本部を襲ってきました。
何かを渡せと叫んできますが、誰も検討がつきません。

元々彼らはこの周辺を荒らす一大勢力であったため、
訓練兵を卒業したばかりの三日月やオルガ達も全員駆り出されて防戦に当たりますが、このままでは押し切られるのは目に見えています。

そんな窮地に見舞われ、海賊の数に怯えた傭兵団の団長は本拠地の屋上に逃げ込みました。それに気づいた三日月は後を追います。
決して団長の身が心配だったからではなく、あの光を思い出す度に嫌な予感がするのです。万が一、オルガ達や仲間にも害を及ぼすのなら、その前に殺してでも止めなければと階段を駆け上がりました。

三日月が扉を開けるのと同時に、団長は自分の左手を何やら怯えて眺め、そのままその手を徐に空へ掲げるのが見えます。

嫌な予感のその通りに、あの謎の光が傭兵団本部の空から広がり、三日月が舌打ちして駆け寄るよりもずっと速く、その不気味な光はまるで海を食いつぶすように海賊たちを次々と滅していきました。

その後の団長の様子も例の海賊と全く同じ。
苦しみ始めたと思ったその時、あっという間に彼の身体もまたあの海賊のように灰になっていくのです。
そして、消えゆく間際に灰の間から飛び出した光は三日月の左手の中へ……。

三日月をも引きずり込むようなその左手の熱は、彼の意識を奪っていきました。

 

次に三日月が目を覚ますと、そこはよく見知った懲罰用の独房です。

団長が灰になっていく様は目撃されていたようで、団長殺しの罪を着せられ、目を覚ました翌日には反論の余地もなく流刑を言い渡された三日月。

「死罪よりはマシだろう」と嫌悪と憎悪を含んだ怒気で副団長は「情けだ」と言いますが、三日月からすれば

(小さな船一隻、食う物もこれだけ、死ねって言うのと何も変わらないだろ)

と呆れるほかありません。

それでもまだ三日月の顔には悲壮感も怒りもないのです。
むしろこれはいい機会、自分の力で漕ぎ出す日がようやく来たのだと。

それに気心の知れた孤児仲間のうち、三日月への仕打ちで完全に傭兵団を見限ったオルガは、当然のように三日月が送り込まれる予定の小さな流刑船に隠れる算段を始めました。

シノとユージンも一緒です。

この3人は身体が大きく、明らかに船尾で不審な荷物になっていましたが、副団長は馬鹿にしたように鼻で笑うだけで追及しようとはしません。
興味が無いのです。
むしろ反抗的な子供を厄介払いできてちょうどいい、と。

街に住む双子の妹を置いていけないビスケット、
嫌味な上官の風当たりから傭兵団に残る他の仲間を守る必要があった昭弘は、
「必ず生き残れよ」
と懲罰房から移送される直前に短く言葉を交わすだけですが、気持ちは一緒です。

そうして夜明け前、
誰も見送ることのない岸辺から三日月とオルガ達は船出していきました。

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坏乃

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