幻想水滸伝Ⅳパロ―Ⅳ
不思議な海のめぐり合わせから、三日月とオルガ達は海賊タービンズの一行と手を組んで、人魚を攫っては売りさばいているという商会を討伐することになりました。
タービンズのアミダの話によると、実際は同じ海賊と呼びたくもない、商会とは名前だけのならず者だと言います。
人魚のアトラが覚えていた方角と、アミダが当たりをつけていた島は一致するようでした。
三日月達がクリュセを出てから2日、アトラやアミダ達と出会ってから1日が過ぎた朝。
まだオルガ達が船室で寝ている中、三日月は1人で甲板から朝陽が照らす海を眺めていました。
いつまでも見ていられるような、次々と姿を変えるきらめきがそこにはあって、命はここから生まれてここに還るだなんて考えたやつも、きっとこれが好きだったんだろうと三日月は思うのでした。
死というのは冷たく思えるけれど、海へ還るというのは三日月にとってとても温かく思える。
いつか、そこへ、と、夜明けと共に冷たさが和らいでいく水面へ手を伸ばしたその時、
「三日月」と朝陽を背に、彼の名前を呼んだのはアミダでした。
彼女の船は三日月達の船の少し左前方を進んでいましたが、アミダが船首から船室の出入り口付近まで近づいてくると、お互いの声は十分に届く距離です。
「朝が早いのね」
「別に。普通じゃない」
「そうか」
「何か用?」
「いいや……そう、三日月、あんたはオルガ達とも少し違う感じがすると思って」
「……?」
それはそっちも同じだろうと思った三日月ですが、声にはしませんでした。
同行すると決まってからしばらく彼女達と過ごしていますが、その中でもアミダは特に、今までに出会ったことのある女性とはどこか違う強さを三日月は感じます。
何が言いたいのだろうかとアミダをじっと見ますが、彼女の口は閉じたまま。
もう話がないならオルガ達を起こそうと身体を捻りかけた三日月を、アミダの声が止めました。
「……あいつが、お前達に迷惑をかけたようね」
三日月が少し斜めに身体を動かして見た彼女は、目を閉じて寂しそうに笑っていました。
「何?」
「なんでもない。なに、あのクーデリアが使いに出したと聞いたから、あんたやオルガに少し興味を持っただけさ」
「あっそ」
「さて、あと1時間もすれば目的の島に着くよ。オルガ達に知らせてきな」
「わかった」
バタンと三日月が木の扉を閉める音の後、彼女はくるりと三日月達の船に背を向けました。
その島への攻め込み方は、至ってシンプル。
三日月をもっと極端にしたような形のその島は周囲がつるつるとした岩肌の崖で覆われていて、入り口といえば、船1隻通るのがやっとというくらいの幅にすぼんだ入り江1つしかなかったからです。
三日月達がそこへ堂々と真正面から攻め込み、全く警戒もしていなかった相手に斬り込みます。
「あー、なんだその、昨日の三日月とラフタの一騎打ちに比べたらこいつら、ちょっと温すぎじゃねえの?」
軽口を叩きながらシノがまた1人、大剣で切り倒しました。
もし島の奥に隠れているのならば分かりませんが、見える範囲であればその数は30人ほどでしょうか。
殺すな、とオルガに言われていた三日月は、次々と相手の懐に踏み込んで殺しはしない程度に打ち据え、3分の1ほどを片付けてしまいました。
倒した数は次いでラフタ、その次がシノ、という具合の内訳。
全く歯ごたえのない戦いに三日月やラフタ達が皆呆れ返っている中、船の上から見守っていたアミダは海岸と島の様子をじっと見つめていましたが、
「……アジー!」
鋭い目つきで急に叫んだかと思えば、森の奥の方を黙って顎で指しました。
同じく無言で頷いたアジーは、素早く岸に上がって森の奥の方へ走ります。
「……なんだ?」
オルガや三日月達も緊張を取り戻して剣を握り直して、アジーの走り去った森を睨み付けます。
数分経った頃でしょうか、アジーが首を振りながら戻り、「姐さんすみません。逃がしました」と細い眼差しを更に険しくしながら、ざくざくと砂浜を歩いて海へ近づいてきました。
「足跡から、多分2人ほど」
「分かった。助かったよ」
「残党か?」
アジーとアミダのやりとりから、オルガのほか全員が、まだ倒しそこなった敵がいたのだと察しています。
「ああ。さすがにあの入り江だけってことはないと思っていたけど、やっぱりそうか。洞窟か何か、外周からは見えないが海へ抜ける道くらいはあったんだろう」
「追いかけんの?」
と殺気立てて森を睨む三日月は今にも水面を蹴り上げて走り出す勢いですが、アミダは頷きません。
「……無駄だね。少し気にはなるが、今はひとまず人魚の子らが全員無事だっただけでもよしとするさ」
「だな」
オルガも、ならず者達を全員捕えてやろうというつもりまではありません。
勿論、それが叶えば一番良かったのですが、それは言ってしまえばおまけであって目的ではないのです。