幻想水滸伝Ⅳパロ―Ⅳ

「アトラ、大丈夫そうか?」

人魚の女の子達は、海岸の中央から少し右に離れた岸辺の、岩で海を区切った小さなプール状態の空間に上から張った網で閉じこめられていました。
可哀想なことに怯えきっている様子の人魚達は、小柄な三日月はもちろん、背格好のいいオルガやシノ達が少し身動きするだけで体を竦ませています。
同族のアトラが安心させるように声をかけながら泳いで近づきました。

「ええっと……はい、皆元気です!」

「よかったよかった!ほんと、女の子になんてことするんだか」
ラフタは怒りを滲ませながら網を外し、海へ自由に泳いでいく人魚を眺めています。

アトラは三日月の隣の砂浜に座り
「三日月、ありがとう」
と、不安や恐怖は1カケラも混ざらない笑顔でお礼を言いました。

「まあ別についでだし。よかったね」
「うん!……あのね、三日月達はこれからどうするの?」
「どうって、元々の仕事に戻るだけだけど。この近くの島に用事」
「私、三日月達について行っちゃだめ?」
「は?」
「人間のご飯とかそういうのは無理だけど、私、えっと、そうだアミュレットとか役に立つアクセサリーなら作れるし、何でも頑張るから!お願い!」

「……俺が決めることじゃない。オルガに訊いて」
その三日月の言葉に、アトラはバッとオルガの方に首を向けました。

「あ?何言って……遊びに行くわけじゃねえんだぞ。俺達の仕事は一応島を巡って人集めってことになってるが、
海をいけばモンスターと普通に戦うはめになるし、こういうどうしようもねえ人間と小競り合いになることもある。
要は危険が」

「お願いします!!危ないと思ったら、船の底のほうへ潜って逃げれば多分大丈夫だと思うし、だから……!」
「……なんだってそんな……」

両手を胸の前で組み、必死に縋るアトラと、戦闘時よりも狼狽えるオルガ。
楽しそうに成り行きを見守る仲間たちには、この戦いの結末の予想はついています。
三日月でさえ、横目でその光景を見ながら少し口の端が上がっていました。

「いーじゃねえかオルガ、別に戦ってもらうわけじゃねえんだし。縁があったってことだろ?」
「シノおめえな、そこらで動物拾うのとは違うだろうが……」

頭が切れるオルガでも善意のお願いにはめっぽう弱く、

「あー……ったく、移動はあの網のハンモックで、それでいいな」

交渉はあっさりまとまりました。

「!ありがとうございます!私、お姉さん達が行っちゃう前に挨拶してきます」

アトラはそう言って、三日月達と話すアトラを少し離れて不安げに見守っていた人魚たちの方へ泳いでいきます。
その後ろ姿を眺め、やれやれとユージンは頭をかき、「まさか、人集めの第一号が人魚な」と苦笑い。

「ユージンうるさい。オルガ、もう出発する?」
「ミカ……ああ、昼飯食った後だ。それに、向こうがまだ用があるだろ」

砂浜に立つタービンズの3人と浅瀬に立つ三日月達は、5メートルほど離れて向き合っています。
そういえば、傭兵団を襲った海賊の話を聞かせろとラフタ達に言われていたなと三日月は思い出しました。

彼女たちにどこまで話すか、昨日の夜のうちに4人は話をつけてあります。
例の海賊の男は死んだ。
話すのはそこまで。
紋章の話はなし。
クーデリアと付き合いはありそうな彼女達ですが、それだけで罰の紋章のことまで話していいのか分からなかったからです。

アミダは「さて、協力はここまで」と言い、ラフタとアジーを後ろに従え、腕を組み堂々と三日月達を見据えました。

「まあ、取って食いはしないから安心しな。ちょうど昼時だろう。食べながらでいい、お前達が海へ戻る前に聞きたいことがある」

アミダにそう促されて、4人は砂浜へ上がりました。
森から乾いた枝を拾い集め、火を起こしたら食事の時間です。
クリュセから持ってきた日持ちのするチーズや塩漬けの肉、それに航海中に釣れた魚がありました。

「オルガ、お前は言ったね。お前達の傭兵団を襲った海賊の船にはタービンズの旗があったと。それは事実?」

「ああ。ただ、そいつらの首領は名乗りもしなかったから名前までは知らねえ。
何で襲ってきたのかはこっちが聞きたいくらいだ。見た目は……俺より少し小柄なおっさんだったな」

「もうちょっとちゃんと覚えてないの?」ラフタが手に持った串を振りながら苛立ったようにオルガに向けます。
「ラフタ、やめな」と静かにラフタをけん制するアジーも、気が気ではない様子。
「で、そいつはどうなった?」

先を促すアミダにオルガが一瞬言葉を躊躇うも、「死んだ」三日月だけは変わらず淡々と事実を告げました。

「ミカ……んなはっきり」

「ッ……!なんで!!」
「ラフタ……だけど別に、まだそうだと決まったわけじゃない……」
やわらかい砂浜とはいえ、ばん!と音が響くほど強く、握った拳を叩き付けるラフタも、
自分に言い聞かせるように静かに呟くアジーも、
2人とも眉を険しくひそめて気持ちをこらえているようです。

「……その海賊の最期は、どうだった」と訊ねるアミダに
「追い詰められて死んだ、それだけだ」答えたのは三日月ではなく、オルガでした。

これも前夜のうちに決めておいたこと。
詳しいことはオルガが答える。
三日月は素直すぎるおかげですぐに「紋章」と口に出してしまうでしょうから。

「……それだけ、と念を押すところを見ると、何か隠しているだろう?正直に言いな」

「言ってるさ。それ以外に説明のしようがねえだけだ。
あいつは、襲ってきた時から何か焦ってるようには見えた。だがその理由なんか知らねえ。
こっちもそれなりに人数はいたし、あの場にはミカだっていた。
それでなんとかしのいで、最後は傭兵団のボスがトドメさして終わりだったな。
だから逆に俺達はタービンズに訊きたかったんだぜ、なんでいきなりあの海賊がケンカなんか売ってきたのか」

「……」

アミダはオルガが説明する間、まばたきの間も一切目を離さず彼の様子を窺っていました。
説明を終えたオルガが、どうだ、とばかりに睨み返すも、アミダは言葉を一切発せず、
5分ほどでしょうか、じっと黙って考えています。
シノトユージンは余計なことを言うまいと心臓を刺すような緊張感を耐え、
オルガは自分の言葉に矛盾がなかったか?と必死に考えを巡らせ、
三日月は(オルガは嘘なんか言ってない)と思っていました。
あの出来事から「紋章」というものを除けば、まあ確かにオルガが話した通りでしょう。足りないだけ。

「……一応、筋は通っているか」

「姐さん!」納得できないと言うようにラフタが叫びます。

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坏乃

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