幻想水滸伝Ⅳパロ―Ⅴ

三日月達がクリュセへ帰り着くと、桟橋でクーデリアが出迎えました。
いつも彼女の後ろに控えているフミタンがいません。
港はいつもより慌ただしく、それでいて停泊している船はいつもよりずっと多く、
三日月でもこれは何かおかしいと思います。

三日月達の船が岸に着き、桟橋に降り立つと、
「ご無事で何よりです。オルガさん達からの遣いだという方から、ドルト島のことは知りました。
迅速な情報に感謝します」
とクーデリアがまずは頭を下げ、とにかく一緒に王宮へ来てほしいと言いました。

オルガと三日月がクーデリアと肩を並べ、後ろにシノとユージンがつく形で、王宮への傾斜道を歩きます。
歩きながら、見てきたことをオルガが話し出しました。

「あの録画機ってやつを見たなら分かってると思うが、
ギャラルホルンが使った紋章砲はドルトくらいの島なら楽に消しちまえるみたいだな」

「ええ……その様子は私もあの映像で見ました。しかしその、消す、というのは……どの程度の威力なのでしょう?
映像は夜の中でのことでしたので」

「ああそうか。島に直撃した瞬間は映ってても、暗かったからな。俺達は昼間に島の近くまで確認しに行った。
……島根こそぎ、ほとんど何も残ってねえと思えばいい」

「そんな……生存者はいませんでしたか?」

「多分無理だろうなあれは。危険が読めなかったんで上陸はしなかった。それと悪いが射程まではわからねえ」

「大丈夫です、それは映像から大体分かりました。フミタンがドルト島の面積と光が伸びた範囲を計算してくれたんです」

「あの姫さんの付き人が?すげえな」

フミタンの高い測量技術にシノが驚いた様子へ、ふふ、と少しだけ笑い
「彼女はとても聡明なんですよ」と誇らしげに言ったクーデリアですが、
すぐにまた険しい顔つきに戻ります。

「サイ島にはギリギリ届かないといったところでしょうか。あくまで、あの映像が攻撃の限界値なら、という意味ですが」

「そうだ、そのサイ島はクリュセが戦う時には協力するそうだぜ」

「そうですか!ああ、ありがとうございます!」

「普段はギャラルホルンに従うって話だけどな」

「それで十分です。あの島はドルトに次いでギャラルホルンから近いのですから、恐怖は当然でしょう。
心が共にあるだけでも、この群島にとっては力になります」

「そういうもんかね……」ユージンは少し不安そうに頬を掻きました。

「……それより、港に船、多かったけど」
クーデリアとオルガの話を聞きながら歩いていた三日月は、先ほどの雰囲気について訊ねます。

「なんで?」

「……今、島の皆には漁を控えてもらっています。
先日の降伏勧告から間もなくドルトの件がありましたから、事態がはっきりして、今後の方針が決まるまで……」

「海に出たらダメってこと?」

「申し訳ありませんが、お願いします」

「でも見張りは必要だろ」

三日月の食い下がりように、クーデリアは少し躊躇いがちに足を止めました。
こいつは海が好きだからな、とオルガがフォローします。

「それも含めて、話があるんだろ?」

坂の上に見えてきた王宮をオルガが顎で示し、クーデリアは頷きました。

「お願いしていた協力者集めも、早急に進めていただかなくては。
それに……三日月が言う通り、最低限の哨戒は必要ですね。お願いできるのであれば助かります」

「そのつもり」

それならいい、と満足したように頷いて、三日月はすたすたと先へ歩き始めました。
肩を竦めたユージンと、面白そうに眺めていたシノが彼に続きます。
オルガとクーデリアは、さらにその後ろに位置取り、遅れて歩きながら話を続けました。

「……アンタの本音が見えねえ。ミカの紋章だけでギャラルホルンに勝てると思ってんのか?」

「サイ島で何か言われたのですか」

「ま、色々な……っていうかミカの紋章はアンタから聞いてたより、ずっと印象悪かったぜ。
当然だよな、罰の紋章なんて物騒な名前で戦意が出んなら苦労はしねえ。
だがあの小物のおっさんの態度は分かるさ、ギャラルホルンのバケモンみてえな紋章砲1つでコロッと態度を変える気持ちも分かる。読めねえのはアンタの考えだけだ」

そこでオルガは一度言葉を止め、強い視線をクーデリアへ向けます。
ここが運命の分かれ目だ、というように。

「俺もあいつらも、泥船に乗るつもりはねえ。
アンタとこの島への恩は分かってるし、返すつもりだが、あの紋章で無理やり味方につけて戦わせれば勝てるかも、
なんていう根性論だけなら今後の行動は考えるつもりだ」

オルガの力強い視線を正面から受け止めるクーデリアは、狼狽えることもなく、姿勢よく彼へ向き直りました。

「そのご心配は承知しています。
協力をお願いした際、私は言いましたね。三日月にあの紋章を使ってもらうつもりはないと。
まずそれは信じてもらいたいのです。その上でギャラルホルンに勝てるか、ということですが、勝つつもりはありません」

「何だと?」

「戦力差が大きすぎるというのも理由の1つ。
それに、そもそもそれでは、あちらが群島に行っていることと変わらないではありませんか。
戦って勝った方が相手の生きる権利を握るというのは。
私はかの国と交渉のテーブルにつきたいと思っています」

「……正気じゃねえ。サイ島と話をするのと同じじゃねえんだぞ。あの軍国相手に」

「ええ、ですから今まで私は迷っていました。どうしたらそこへたどり着けるのか。
罰の紋章と、群島の心を1つに……それは1つの鍵ですが、けれど何を以てすればギャラルホルンが止まるのか……」

「話にならねえな。ギャラルホルンは圧倒的で残虐な軍事力だけがシンボルみたいなもんだろ。
さっきアンタも言ってたが、戦力差を本当に真面目に考えてんのか?そんな相手の心折るなんてよく言える。
言ったろ、泥船はゴメンだってな」

オルガは呆れたと一言付け加え、王宮が建つ広間まで階段を上り切り、三日月達の方へ歩いていきます。

「そうでしょうか」

クーデリアも広間へたどり着き、放ったその声は静かに響きました。
オルガも、先に広間の水辺を眺めていた三日月達も、全員クーデリアに視線を向けます。

「それを倒すことができればギャラルホルンが衝撃を受けるようなシンボルが、あるではないですか。
あちらがちょうど誇示してきた力が」

水辺に水が流れ込む「ざざ……」という音がうるさく思えるほど、静かになりました。
歩いてくるクーデリアの足音だけが響く中、
「オルガ?」と三日月は訊ねました。

「何に勝てばいいって?」

それが沈黙を破る引き金になり、弾けるようにオルガが声を上げます。

「っ待て待て、おいアンタ、まさか、あの紋章砲」

「はい」

「オルガ、何の話だ?今なんかすっげーやばい話が聞こえた気がするんだが」

立ち尽くすオルガの腕をユージンが引き、慌てて話に加わろうとします。

「なんだ、自衛はいいけど争いはダメとか言うお嬢さんかと思ってたら、なんか面白くなってきたじゃねえの」

ひゅうっと口笛を鳴らすシノは頭の後ろで腕を組み、楽しそうに話の続きを促しました。
ユージンが「お前、ほんとそういうとこ頭軽すぎだっての」とシノを小突きます。

仲間達の騒ぎを眺める三日月は、じっとオルガを見つめていました。
傭兵団がある島も群島の端、あの紋章砲が出てこようがどうしようが引き下がる選択肢は最初からないのでは?と思うのです。
交渉を、というクーデリアの計画はよくわかりませんが、紋章砲を壊せば勝ち、という戦いならばやればいいじゃないかと。
もし傭兵団にまでギャラルホルンの手が伸びるのであれば、いつか帰ってビスケットや昭弘、
家族と生きていくということも叶わない夢になってしまいます。

「……腹、くくれってことか」

オルガが天を仰いだそこへ、王宮からフミタンが出てきました。

「姫様。先ほどいくつかの島から伝令が来ました。話を聞きたいと、こちらの使者を迎えてくれるそうです」

「そう!わかったわ、今行きます」

クーデリアは三日月達も王宮へ、と促しました。

「これからのお話をしましょう。貴方がたの故郷も、このクリュセも、群島全ての明日のための戦いのお話を」

くっと息をのんだオルガは重い足を持ち上げ、一歩ずつ水辺の真ん中を歩いていきます。
三日月もその背中を追いました。

オルガは怒るのかもしれないけれど、三日月は少し、胸が躍っていました。
交渉とかいう面倒そうな戦いはクーデリアがやるとして、気を遣え手加減しろ、
そういう配慮は一切求められなくなりそうだと思うと、気が楽になりました。

(俺は敵がはっきりしたならそれを全力で排除するだけ。
ギャラルホルンっていうのがどんなやつでもいいけど、なんだっけ知ってるような……
ああ、俺が会ったのはあの船だけか。あの金髪のチョコのやつと、なんかうるさい隣の男、また戦うことになんのかな)

そんなことをちらりと考えた後は、両側を水に囲まれている小路を眺め、
やっぱり綺麗だな、クーデリアとの話が終わったらまた手か足を浸そう、と意識を取られる三日月なのでした。

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坏乃

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