幻想水滸伝Ⅳパロ―Ⅴ

三日月達が背を向けた北の方角のギャラルホルンの要塞では、マクギリスが執務室から海を眺めていました。

晴れやかな空と海に対峙するマクギリスの目は、非常に険しいものでした。
ドルトという島へ行われた攻撃は、ギャラルホルンの内部でもまだ何の公表もありません。
マクギリスもその理由を聞かされていたわけではないものの、彼の頭の中では、
かねてから探らせていたギャラルホルンの内幕に対する疑念が一瞬で全て繋がったのでした。

「あの男……」

マクギリスが苦々しく呟いたところへ、
「マクギリス!お前、遠征の準備はまだ始めていないのか!?」
とガエリオが部屋へ飛び込んできました。

「……ガエリオ、唐突にどうした。クリュセへの遠征はまだ正式な決定ではないはずだ。
それより昨夜ドルトに何を行ったのか、俺はそれを調べる義務がある」

「ドルト。ああ、あの以前からギャラルホルンに噛みついていた島だな。
それなら、かねてからギャラルホルンに叛意があった島が決起する機運が高まったことを受けて
見過ごせず制圧したこと、エリオン公がこれから発表する予定だと先ほど聞いてきた」

「何だと?」
やはりあの男が、と苦虫を嚙み潰したようにマクギリスは言いました。

「いつからギャラルホルンはラスタル・エリオンを独裁者にした?
あの島は確かにギャラルホルンの哨戒任務に抗議をすることはあったが、武力で蜂起するほどの勢力はない。
実際報告もそう受けている」

「あの子供の紋章じゃないか?」

「子供……?まさか、群島の例の紋章」

「?そうだぞ。それ以外何がある、マクギリス」

「ガエリオ、エリオン公がそう言ったのか」

「ああ、ドルトがあの生意気な子供を囲って紋章の力を手に入れ、調子に乗ったんだと」

「……」マクギリスは何も言葉にしませんでした。

「だから、次は俺達が遠征に出なくては」

「……クリュセへか」

「当然だ!ドルト以前にあのガキ、あの出涸らしのような貧しい群島の中心に入り込んで、
目障りな存在になりつつあるらしい。
挙句の果てに、紋章をちらつかせてあの海域を煽り回っては戦力を集めているなどと、とんでもない話だ。
以前の船上での雪辱を晴らすいい機会だぞ、マクギリス!俺は命令が出ずとも志願して向かうからな」

「落ち着けと言ったはずだ……しかし、軍からの派兵命令が出るのであれば従うが、ドルトの調査も急務だ」

「そんなもの、どうせ事後処理だろ?降伏するという住民の扱いくらい、部下に任せておけばいい!
あのガキの忌々しい紋章を捻じ伏せ、つまり反徒の旗印の討伐!お前が先陣に立つ価値がある。
【海神の申し子】の二つ名を持つお前と共に航海するというだけで、浮足立つ兵は多いからな。
急いで支度をしろ」

「ああ、お前がわざわざ伝令に来た意味は分かった。急がなければお前の家のスレイプニルに置いて行かれるな。
こちらも必要な準備は整えよう」

マクギリスから同意を得るとガエリオは満足したのか、部屋の外に待機させておいた部下へ
「アイン、今回はお前もついてこい」と告げながら意気揚々と自分の家の船へ向かっていきました。
前々から三日月と再戦するのだと遠征の準備は進めていたので、ギャラルホルンのお墨付きまで得た上にあの様子では、
今日明日にでも出立するつもりなのかもしれません。

「……ラスタルめ、あの男……狙いはなんだ。
ガエリオにわざわざ紋章をちらつかせたのは……あいつを焚きつけるだけか?」

急に静けさが戻った部屋で、マクギリスは椅子に深く座りました。
群島のような南の辺境の地に興味を持つ人間など、ギャラルホルンの内部にはほとんどいないため、
ラスタルが兵を集め、ガエリオへ伝えたような話を演説にでもすれば、それは真実になるのでしょう。
しかしマクギリスは自分の情報網を持っており、
ガエリオは「普通より危険な紋章」としか知らない罰の紋章のことも、群島の風土や気質も把握しています。

ラスタルのやり方はギャラルホルンの常套手段そのもので、また本格的に他の文化圏を蹂躙するのだと確信しました。
……しかし目の前に突如現れた対処事項の山に対して、どんなに有能であろうともマクギリスは1人です。
正式に命令が出るとすれば彼もクリュセへ向かうしかありません。
ドルト島がどうなったのか、攻撃に使われた武器についても確証を得たいところではありますが……。

「今最も問題なのはガエリオが向かった方だな……仕方ない。石動」
マクギリスが呼ぶと、彼の傍らに、急に影が形を持ったようにすっと部下の男が現れました。

「……ドルトはお任せを」

「頼む。それと、これからラスタルが流布するはずのクリュセとドルトの印象操作の件も、調査を。
私はクリュセへ向かう」

「あの紋章にはお気を付けください」とマクギリスに告げて頭を下げると、石動は現れた時と同じように静かに姿を消しました。

罰の紋章のことを詳しく知っている人間は、ギャラルホルンの内部でも片手で数えられるほどです。
どうやらラスタルはそのうちの1人である様子。
その紋章の性質を恐らくは知った上で派兵を決めた意図。
それを考えるマクギリスは、美しい光を放つ海を穏やかに眺める時間はしばらくなくなるな、と思いました。

「さて」

マクギリスは遠征に必要な物資の手配を一通り終えて、机の上に集めた資料を広げ、見つめます。

クリュセ
クーデリア
罰の紋章

三日月

「……戦か……」

彼の想定よりずっと早い、三日月との再会と再戦の予感。
それは群島と、ギャラルホルンにとっても大きな転機になるだろうということを、知っていました。

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坏乃

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