幻想水滸伝Ⅳパロ―Ⅱ

 

無人島から船で漕ぎ出した三日月達は、
また何度も海上でモンスターと戦うことになります。
とはいえ、彼らから見ればレベルの低い相手ばかりで、ため息と舌打ちを終えるまでに皆で撃退していきました。

今どこを漂っているのか正確な位置は分からない以上、天気が良いことだけが救いです。

この状況でまた時化に見舞われる前に、早く人が住む島へ上陸しなくては。
心もとない船の上で一晩を過ごし、そんな焦りがオルガにひたひたと忍び寄る頃、また波間からモンスターが襲ってきます。
何度か見たエイのような形をしています。

「いいよ、俺が片づける」

うんざりしたように言う三日月が相手をします。
戦闘自体は簡単に勝敗がつくものの、 今までの敵より体が一回り大きかったこのエイが海にずり落ちていく際、 事もあろうにユージンが立てかけておいたオールにぶつかって、 そのまま一緒に流れてしまったのです。

「あーっ!」

シノが叫んで手を伸ばしますが、 エイが落ちた重みでできた波であっという間に船と距離が離れてしまい、間に合いません。 回収するのは無理でしょう。

「……どうすんのユージン」
「お、俺のせいじゃねえだろ!」
「ちっ……」

いくらなんでもオールが無ければ風に頼る以外に進む手段がありません。
現在地が分からないとはいえ自由に方角も決められない。 無人島で作ったのですから当然帆も無く、この船は漂うことの他に自分では仕事をしないのでした。

「あーもうこうなりゃあれだ、剣で漕ぐか」

シノが笑い飛ばしますが、オルガとユージンは険しい顔のまま。
三日月は肩をすくめた後で周りを見渡しました。

どこを見ても一面の海。
それでも三日月には恐怖も落胆もあまりありません。
オルガがどうするのか決めるまで待とうと決めて、手持無沙汰になった手を船に弱く打ち付ける波に浸しながらぼんやり考えます。

ここで死なないならきっとどうにかなるし、 死ぬとしてもきっと命はこの海に還るのでしょう。
海と隣り合って生きる者は多くが自然とそう考えるようになるようで、三日月もその考えは嫌いではありませんでした。

この海に還るのなら、それもいい。

「!おいオルガ、あれ」

ユージンの声に、3人がその指差した方向を見ると、うっすらと何かの影が見えます。
もしかして、船でしょうか?
先日の商船の件は未だに三日月達の脳裏にこびりついていますので、 少しずつ近づいてくる船に当然警戒はするのですが、甲板から
「どうしました?」
と声をかけてきたのは、長い金色の髪を後ろで束ねた女の子でした。
歳はオルガと同じか少し下くらいでしょうか。

「どうするオル」
「すみません、モンスターと戦ったらオールが流されてしまって」

ユージンがオルガの方へ振り返るより先にオルガが素早く対応します。
敵なのかどうかと仲間内で相談することで不審者だと値踏みされることもある、そう考えて、彼女の雰囲気と印象と警戒を天秤にかけ、すぐ行動に移したのです。

立往生していた理由を当たり障りないように話すと、クーデリアと名乗る彼女に招かれ、4人はその船に乗せてもらうことができました。

そう大きくはありませんが、金属の硬く冷たい印象があった先日の商船と正反対の木造、三日月達も乗り慣れたような親しみやすい船です。
オルガがクーデリアと話をするのを横目に三日月は甲板を見渡します。

オールだけ貰えないかとオルガは交渉するようですし、それならば長居はしないでしょう。
この船に興味はないですが、せっかくなら船首の方から海を眺めようと、三日月がクーデリアの後ろに控える眼鏡の女性の横を通った、その時。

「!お嬢様、この方の……」
彼女は三日月の左手を見た途端に顔つきが険しくなりました。

「は?何?」
三日月は不快感を隠そうとしません。

「フミタンどうし……
!……そんなことって」
振り向いて三日月の左手を見たクーデリアもまた、目を見開いて動揺を露にしました。

「ミカがどうかしたんですか」
その様子にオルガはすかさず、庇うように自分の背中の後ろへ三日月を隠します。

「……ああ、その、いきなり失礼しました!……不躾に申し訳ありませんが、この紋章はどこで……?」

「……それはまあ色々あって。珍しい紋章かもしれないですが、何か問題でも?」

「それは……もしかしたら昔……いえ。ねえフミタン」

「……賛同しかねます」

「でも、このままにしてはおけないわ。
……あの、どうでしょう、オールだけとは言わず、このまま私達の国までご一緒していただけませんか?」

「俺達が?どうして」

突然の申し出にオルガは身構えます。
三日月の紋章が罪人の証とでも言われたような気分で、見る間に顔つきが険しくなりました。
傭兵団でのことは知らないはず。
けれどその国に着いた途端に拘束される危険がないと、言い切ることはできません。 オルガの張り詰めた空気を察し、シノとユージンも素早く仲間の下へ寄ります。

「その、強制できるものではありませんが、あなた方にもメリットになりませんか?」

「メリット……?」

「この船の中は自由に過ごしていただいて構いませんし、クリュセへ着いたその後の安全もお約束します。 遭難されていたとのことですから、必要でしたら逗留していただいても結構です。
私は……彼のその紋章について少しお話を伺いたいだけです」

背中に庇う三日月をチラリと見るも、オルガは断れる状況にありませんでした。
信頼できるかは分からないとはいえ丁寧な言葉と柔らかな物腰で提案するこの少女に、少なくとも対等に交渉のカードを出してきたクーデリアへ、オールだけ貰って自分達だけの航海へ戻りたいなどと言える人物は三日月達の中にはいなかったのです。

そこからは朗らかに労われる三日月達。
これから帰るという彼女の国、島国クリュセへ一緒に行くことになりました。
彼女はそこの領主の娘、王女だそうです。
明日には到着するとのことですが、一応お礼にとその間の護衛を引き受けることでも合意しています。
三日月のことで気になる反応はしていたものの、ひとまずは当面の不安が去ったことでオルガの肩からようやく力が抜けました。

ただ
クーデリアがフミタンと呼んでいた女性は未だに三日月達を警戒しているようです。海の真ん中で帆も無い船に乗っていた男4人ですから、当然といえば当然でしょう。
しかし
三日月にはどうも、彼女のその眼に映っているのは不審というより畏怖に見えるのです。

「ねえ」
「!……なんでしょう」

クーデリアの船に乗った翌日の早朝、クーデリアの部屋の前に立つフミタンに三日月が話しかけると、一瞬目を見開くもののすぐに無表情に戻ります。
その様子をじっと見て、三日月は自分の左手を差し出しました。

「アンタ達って俺のコレが怖いの?何で?」

「……それはお嬢様が直接お話になります。クリュセに……
!どうやら着いたようですよ」

そう言われて三日月が傍の窓から外を見ると、高い岸壁に囲まれた港、そこから続く桟橋が目に見える距離にありました。

「少し島を見て回ってからで構いませんので、この奥の王宮にお越しください。
ここからあの道を真っすぐ進めばすぐ着きますから」

桟橋へ降り立つとクーデリアはオルガにそう伝え、用事があるからとフミタンを連れて街へ歩いて行きました。街と言っても規模は小さなもので、南国の小さな村という方が合っているでしょうか。

三日月達はクーデリアが指さした道を、左右の街並みを眺めながら進んでいきます。 特に観光するつもりもないとはいえ、宿屋や医院など必要最低限の施設があるだけで、娯楽の類はあまり期待できそうにありません。

その様子にシノとユージンはあからさまに肩を落とし
オルガはこの島国の規模と勢力を値踏みし
三日月の興味は完全に鍛冶屋だけ
皆思う所はそれぞれです。

一旦小さな広場で休憩をすることにしました。

「……オルガ、お金ってあった?」
広場の隅で火花を躍らせている鍛冶場を眺めながら三日月が問います。

「……ああ……野宿になるのは別にいいんだが……」

当座のことを考えると武器を鍛えるか紋章屋には行きたいところですが、4人とも所持金や持ち物は僅かなものです。

「あのお嬢さん、王女サマなんだよな?
これが俺らが助けたってことなら謝礼くらい貰えたかもしれねえのに」

「助けられたのは俺達の方だろうが。ユージン、余計なこと言うんじゃねえぞ」

「そんなことくらい分かってる!お前はいちいちうるせえよオルガ」

「まあとりあえずまんじゅうか薬仕入れとこうぜ!」

結局そのシノの意見以上に良い選択肢は思いつかず、見つけた小さな雑貨屋でいくつか買っておきました。

その後しばらく上り道を歩くと、開けた場所に出ました。恐らくクーデリアが言っていた王宮でしょう。
大きくも新しくもない、言ってみれば少ししっかりした造りのヴィラが少し大きくなった…というところ。
歩いてきた山道と建物の間には30メートルほどの距離しかありませんが、浅く水が張られた小さな池が両側にいくつも点在し、 水の音の途切れることがない、とても綺麗な道でした。

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坏乃

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