幻想水滸伝Ⅳパロ―Ⅱ



それは遡ること初日の夜。
皆が寝静まった後に三日月は1人で波の音を聞いていました。

「無実を晴らす」とオルガが言うその行為自体には、
本当はあまり興味がないのが三日月です。
無実だということは自分が分かっていて、それを信じてくれる仲間も居ます。
当事者なのですが、誰かを相手に主張したり納得させるという行為にオルガほど熱意はありません。

ただ、自分が帰る居場所、温かい場所は欲しいと小さい頃から思っていました。
傭兵団そのものはそれとは違うと思うのですが、残してきたものは気がかりです。

(俺がどうのっていうのは別にいいけど昭弘とはまた模擬戦したいし、ビスケットやクッキー達とまた貝拾ったり、桜ちゃんの手伝いはしに戻りたいな)

と、以前自分が手伝っていた養殖場のことを考えていた時です。
何か音が聞こえたような気がします。洞窟の方でしょうか。

なんとなく気になったので、剣を持って奥に向かうことにしました。
誰かを起こすつもりはありません。

シノと探索に訪れた昼間、一番奥に地底湖があるのは確認していました。
そこまで行って何もなければ帰ろうと思った三日月が近づき、昼間も薄暗かったそこを改めて静かに見てみると…
水底の方から少しだけ光を放つ地底湖が岩壁まで照らす、とても幻想的な世界です。

その水面を見ようと三日月が近づくと、岸辺に座った誰かが足を水に浸していました。
髪の短い女の子に見えます。

「誰」

「え?!」

声をかけると、驚いたのか一瞬で湖に潜っていきます。
殆ど人と同じに見えますが、ちらりと見えた彼女の腕と足には、小さいヒレのようなものがありました。

翌日その話をオルガにしたところ、「あーそりゃ多分人魚だな」と言います。
人間に警戒心を持つのでそうそう出会う機会はないものの、海を商売にしていれば出会うこともある、という説明してくれました。
ただ最近は売買を目的とした密猟者の乱獲によって急激に数を減らしているとか。
さすが、オルガは読み書きも知識も自分達の中でダントツだと、改めて感心する三日月。

「ふーん、俺、初めて見た」

それから三日月は毎日夜になると地底湖に通いました。
人魚ではなく地底湖のあの水辺を見たくて足を運ぶのですが、彼女も毎晩そこにいました。

「名前なんていうの?」

人間に警戒心を持つとオルガから聞いたはずですが、好奇心の方が強いのか、彼女の方からしきりに三日月に話しかけます。

「……そっちは名乗んないの?」
「!そっかごめんね、私、アトラ」

それから色々なことを訊かれ、彼女からも話を聞きました。

「三日月は私の皮を剝いだりしない?」
「は?何言ってんの?」
「だって皆が、人間はそういう連中だから気を付けろって」
「興味ない」
「そっか」

彼女に思う事は特になかった三日月も、
3日目の夜になる頃には「なんだかよく笑うヤツ」と思ったものです。


4日目の朝、旅立ちの前にふと地底湖に寄るとアトラはいませんでした。

海岸で船出の準備をしていたオルガ達の元へ三日月が戻ると、どうも様子が変です。

「ミカ、シノのやつ見なかったか?」
「いないの?オルガ」
「なんか最後に食糧採ってくるとかなんとか言ってたけどな」

待っていれば戻ってくるはず、と、そちらはオルガ達に任せた三日月が海の様子と船をチェックしようと岸辺に近づくと

「三日月!!」

浅瀬にアトラがいました。

「三日月の友達、襲われてるよ!ヌシガニ!」

「え?」
「ミカ、人魚ってあの子」

どういう意味かとアトラに訊ねようとすると、丘の方から叫び声が聞こえました。
3人が全力で丘までの一本道を走り抜けると、そこには見たこともないほど大きな蟹のモンスターがシノに迫っています!

尻もちをついていたシノを三日月が首根っこを掴んで引きずり寄せると、たった今までシノが座っていた場所には蟹の大きなハサミがずっしりと突き刺さっていました。

「やべえ助かった!海辺にいた蟹食えねえかなって手出そうとしたら、親みたいなの出てきやがってよお」
「何やってんの」

三日月が呆れてジトリと睨みつけます。
怒り狂ったヌシガニから逃れられず戦闘になりましたが、甲羅が硬く、攻撃がまともに入りません。

「……こりゃ面倒な相手だな」

指示を出すオルガは「紋章くらい使えれば」と舌打ちをしました。
しかしこの調子では、紋章があっても効果があるかどうか。
わずかに持っていた薬で回復しながら戦いますが、三日月や仲間の体力は少しずつ削れていきます。

戦闘が始まった頃から、三日月の左手には微かにヒリヒリと焼けるような感覚がありました。傭兵団の初仕事で遭遇した海賊、団長、その2人が何かの力を使った光景を思い出します。

(これ……)

三日月がそこを見たその時、 大きなハサミがいきなりオルガの上に振り上げられてしまいます。予想外の攻撃に誰も、反応速度が一番速い三日月でももうオルガが立つ場所までは間に合いません。

立ち尽くすオルガの姿
シノとユージンの叫ぶ声

三日月にはもう何の情報も入ってきませんでした。

そのハサミが振り下ろされるより速く、何の躊躇いもなく力を込めて空に掲げられる三日月の左手。そこから放たれた禍々しい光は、ヌシガニを一瞬で灰にしてしまいました。
驚いたオルガが振り返ると、目に飛び込んできたのは崩れ落ちていく三日月の姿でした。


昏睡する中で、三日月は夢を見ます。
赤黒い光の中を当てもなく歩く夢。
傭兵団の団長から光が移って意識を失った時も実はこうでした。
ひたすら歩いていくと真っ黒な影と戦闘になるものの、手に持っている剣の一太刀で崩れ落ちていく影。
言葉を口にしていますが、そもそもこの影が誰なのか、その言葉が誰に向けたものなのか全く分かりません。

普段夢は見ない三日月、これはいったい何なのでしょう。

 

 

オルガ達が心配そうに見守る中、丘に寝かされていた三日月が目を覚ましました。
もう1日休むか?と気遣うオルガに首を横に振ります。
準備が終わっているのだからさっさと海に出たい、そう言う三日月に押し切られ、4人で造った船が沖合に向かって無人島の浅瀬を進んでいきます。

「三日月」

進む船から5メートルほど離れてアトラが泳いでいました。

「ヌシを倒してくれてありがとう。あいつ、すぐ暴れるからあたしも皆も困ってたの。いなくなってすっごく安心したよ」
「別に。お前のためじゃないけど」
「三日月はすごいね」

じゃあね、と笑顔で手を振るアトラから船は離れていきます。

隅に置けないヤツ、と冷やかしてくるシノはほうっておくことにして、あの力は何なのかと三日月はそっと自分の左手を眺めてみました。

(……紋章?)

そこに力を込めて……当てずっぽうでしたが使い方は普通の紋章と同じでした。
けれど紋章屋で見たことがあるどれとも違います。
前に見た2人のように死なずに済んだのかどうなのか。
色々疑念はあるものの、分からないことをそれ以上考えても仕方ないというのが三日月のスタンスなので、自分の左手に関してもやはり深く考えることはやめました。

オルガも皆も心配そうにしていますが、誰にも分かりません。
とりあえずその心配をする前にどこか人が暮らす島へたどり着けるよう船を漕ごう。

4人はそう決めるのでした。

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坏乃

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