幻想水滸伝パロⅣ―Ⅲ



なんだ?と緊張が走りオルガがあたりを見回すより速く、キン!という高い金属音が方向を示しました。

「んん!?」
「なに、お前…!」

反応できたのは三日月だけ。
オルガ達がようやくその声の主の姿を目にした時、そこにあった光景は、
身軽な軽装の女の子のレイピアがカチカチと音を鳴らして震えながら、
三日月の剣と鍔迫り合いをしている場面でした。

「へ~そんな小さいくせに、そこそこ、やるじゃん!」

「……邪魔……!」

ガチン!とお互いの武器が弾かれ、お互いに1歩下がりました。
と思う間もなく、「敵だ」と認識した三日月は一気に距離を詰め、突然襲ってきた相手に切り込みます。

「こンの……!その子を離しなよ!」

「なんなんだ、お前……!!」

髪を両側に束ねたその女の子は、三日月の力にも速さにも負けず、
上に下に、左に右に、素早くレイピアを切り返しては三日月と切り結びます。

ヒュッと風を切る音まで飛んでくる様子に、ユージンやシノは口を開けたまま見守るくらいしかできません。

「すっげえなあの子、三日月についていける奴なんか、そうそう見ねえのに」
「そんな感心してる暇があったら助けに入れよ」
「オレは無理だっての。行きたいなら行けよユージン」

「お前ら、ごちゃごちゃ言う前に海のアトラの方、庇っとけ!」

オルガが三日月の戦いの少し奥に目をやると、自分達と同じくらいの大きさの船が佇んでいました。アトラと海へ全員が集中していた中で、三日月達の船の背後の小島から一気に近づいていたようです。
気付かれる前に距離を詰め、飛び乗って、三日月に斬りかかる。
それが10秒もかかったかどうか、というところでしょうか。

「チッ……」
小型でも機動力があるな、あれが動いたら面倒だ……とオルガは舌打ちしました。

飛び移ってきたのは1人だけですが、オルガがその船の方を見ると、船首にもう1人、髪が短く眼光が鋭い女性が立っていました。
三日月と戦う彼女がくるくる表情を変え、また大胆に肌を出しているのと対称的に、眉ひとつ動かさずオルガ達を値踏みする様子はクールそのもので、七分丈から覗く腕の他は見せないものの、スラリとした体型にタイトなパンツスタイルが映えています。
まるで炎と氷のようでした。

あちらの船に動かれでもしたら、とオルガが用心して見張っていると、オルガ達と同じく三日月達を見守っていた彼女は、すう…と静かに息を吸ってツインテールの女性に声をかけました。

「……ラフタ」

「アジーなに!!今忙しいんだってば!!」

「あたしには、その人魚の女の子が自分でその船の傍にいるように見えるんだけどね」

「そんなわけないって!絶ーっ対こいつら、例の人魚狩りしてるっていうゲスな連中だし!!」

「何言ってんのお前」

剣の速さは三日月の方が上ですが、身体の速さはラフタと呼ばれた彼女の方が少し上でした。
彼女はその長所を活かし、レイピアでの攻めの間に鋭いハイキックを繰り出してきますが、瞬時に屈んで三日月が避けたと思えば、ラフタのレイピアを狙いながら足払いも仕掛けてみたりと、見ている人間に動きを追わせないほどの戦闘はじりじりと続きます。

誰も手が出せない中、
オルガが、ユージンに紋章の用意をしろとそっと伝え、
アジーが、不本意だという表情で右手の紋章を構えます。

一方、どうしたものかと三日月は少し考えていました。
剣で一気に押し切れるほど目の前の敵は弱くない、けれど
(こいつ、面倒くさいな)
いい加減に勝負を決めたい三日月。

「……」

「いい加減に、降参したらどうなの!」

その真っ直ぐな声と同じく、ラフタが勢いよく上から振り下ろしたレイピアは、
三日月に受け止められることはありませんでした。

「っえ!!?」

体術以外の、純粋に反応する瞬間的なスピードは、誰よりずっと上をいく三日月の力。

「終わり」

一瞬で背後を取った三日月、
船上に転びながらも何とか仰向けになって受け切ろうと構えるラフタ、
そこに風の紋章の魔法が飛んできたのは2つの方向から。

そして

風と同時に飛んできたのは

凛と海に響く声

「これは一体何の騒ぎだ」

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坏乃

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