幻想水滸伝パロⅣ―Ⅲ

 

クリュセや傭兵団があった地域を含める海域は、 その環境に適した文化を持った人や動物や植物が生きています。決して発展しているとは言えないですが、そこに生きる者の生活は平和で穏やかなもの。

しかし軍国ギャラルホルンが……群島と真逆の北の果てに位置するにも関わらず、彼らが辺境と蔑むこの群島方面まで従属を迫ろうと考えているのでは?
最近はそんな不穏な噂があるのでした。

確かに海域を回って海賊のような無法者を討伐することもありますが、基本的には、自分達が秩序を保つ役割を負っているのだと勝手に自負し、周辺の国々を軍事力で強引に従えてきたのがギャラルホルンです。
島それぞれの気風や自分たちの文化を守ってきた群島とは相いれません。

洞窟内に呼ばれた三日月達へギャラルホルンについて簡単に話したクーデリアは、こうも続けました。

「その噂が現実になるかもしれません。ここクリュセを取り巻くようにギャラルホルンの軍艦による監視が日増しに厳しくなってきて……地理的にも遠く離れているこの群島まで、ギャラルホルンは支配下に置こうとしています。
私があなた方と出会った日も、彼らの動きを警戒して哨戒に出ていたのです」

「で?俺達にまさかギャラルホルンと戦えだとか、そんな依頼なら受けるつもりはねえぞ」

「いいえ」

「あ?」

三日月達から一歩前でクーデリアの話を聞くオルガは、ギャラルホルンの話が出てから、より一層彼女を注意深く探るように眺めていましたが、その意図は図れません。

「言っとくが、俺達は見ての通りの頭数で、お姫様に献上できる利益なんてたかが知れてると思うが」

「お持ちではないですか。三日月が……あの紋章を」

「っ!お前……!」

「勘違いなさらないでください、その紋章を使ってほしいなどと私は願っていません。あなた方にお願いしたいのは、人です」

「だから俺達はなあ」

「少なからず、その紋章はこの群島諸島に影響力を持ちます。
【あの罰の紋章】が、16年を経てクリュセへ戻った……その事実を言い換えれば、外敵から群島を守る力が戻ったのだという旗印にできるでしょう。その下へ皆が集わなければ、私達に未来はない……」

交易はあれど、互いの事には我関せず気ままに生きているこの群島諸島から、島に縛られない私兵団を作りたい、クーデリアはそう続けました。
ここを拠点として、群島に存在する様々な人材を集めてほしいと。

「その他に、ギャラルホルンへ対抗する手段は無いと思うのです」

「……何かと思えば、おいおいマジか」

「無理にとは……と言いたいところですが、できればお受けしていただけませんか。 私が自分で回ることができればそれが一番なのですが……」

「姫様が表立って個別に交渉の場に立つのは、クリュセが他の島々を統率するつもりではないかと、それぞれの島の長が警戒します」

「分かっているわフミタン。
……そう、長である私が自ら依頼するのが筋ではあるものの、実際はそれも難しいのです。群島諸島が反乱を企てていると、ギャラルホルンに攻め入る口実を与えることにもなりますし」

「……ミカ、いや、ちょっと全員集まれ」

オルガは洞窟内の隅、酒場のカウンターのようなテーブルに寄って、皆を集めました。

「……どう思う、お前ら」
「どうって、まあ仕事くれるってんならいいんじゃねえの。俺は戦闘以外はからっきしだけどな」
「ああ……このままふらふらしてんのもな」
「俺はオルガが決めればいいと思う」
「…………」

結局、オルガはクーデリアの依頼を受けることにしました。

ギャラルホルンと戦争をするつもりなど三日月達にはひとかけらもありません。
しかし今のところ行く当ても食い扶持を稼ぐ手段もありませんでしたし、彼女の依頼はあくまで人集めとそれに伴う交渉のようです。

それに、海で拾われてから数日間とはいえ宿や食事を提供された恩もあります。
必要があれば、傭兵団の支配エリア付近までの航海に出る許可もくれるそうです。それなら、この拠点を持った上に資金なども支援してくれるという話は悪くないと、全員が思いました。

その後数日間、クリュセ周辺の海でモンスターを討伐していくらかお金も手に入ったので、おかげでようやく紋章屋にも鍛冶屋にも行けました。
普段からあまり表情を変えない三日月ですが、剣のグレードが少し上がって機嫌がいいようです。

しかし、オルガも皆も気がかりなのは三日月の左手に宿った罰の紋章でしょう。

「三日月、お前調子どうだ?」
「別に。手合わせする?ユージン」

想像以上に重く、そして使う度に命を削る厳しく悲しい力。
絶対に使うなとオルガが釘を刺し、オルガ、シノ、ユージンの3人で三日月には二度と使わせないと誓うほど、あの威力は全員の脳裏に刻み込まれていました。

そして仲間たちは皆分かっています。
オルガの時と同じく、この中の誰か、あるいは守ろうと決めた仲間の命が危うくなった時、三日月は躊躇うことなくその左手をまた空に掲げるということを。

三日月の意志は何よりも固く、それを妨げることなどできないということを。

ならばもっと強くなろう、と誓う3人。

右手に持った剣を握り直す三日月はというと、先日倒すことができなかったマクギリスを頭に浮かべ、
(あの青い方はどうでもいいけど、あの金色……次に仕掛けてきたら、絶対)
と決意するのでした。


三日月達の知るよしもないところで、じわりと進むギャラルホルンの群島侵攻。
セブンスターズの命とあっては拒否する理由もなく、航海の物資と装備、それと情報が集まり次第、マクギリスとガエリオは部下を伴って南の果てに旅立つようです。

今度こそあの子供を捕えてやると意気込むガエリオと、
その存在と力に少し関心を持ったマクギリス。

彼らが群島へ旅立つ準備を始めた日と同じ朝、三日月達もクリュセから周辺の島に向けて船を出しました。
三日月の目に映るのは、新しく見る海と波の光。

「どこに行けばいい?オルガ」


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坏乃

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