幻想水滸伝Ⅳパロ―Ⅶ
次に三日月が目を開けると、心配そうに覗き込んでくるオルガの顔が目に入り、彼はようやく自分の世界に戻ってきたのだと分かりました。
「ミカ!目ぇ覚めたか、心配したぜ、お前ずっと寝たままで」
「オルガ?どこ?ここ」
木目が目立つ木の壁だった自分の船の部屋ではなく、天井はそれよりもずっと高く、ごつごつした岩の壁に囲まれています。
そもそも、ギャラルホルンと戦っていたはずではなかったか。
三日月がそう訊ねると「ああ、あそこから逃げる時にタービンズに借りを作っちまった」とオルガは言いました。
「タービンズ……ラフタ?」
「そうだ。ミカが罰の紋章でぶっ倒れた後にあいつらが助けに入ってくれてな。
とりあえずタービンズのアジトに連れてこられたってわけだ」
「アジト…海賊の」
「とりあえず安全なのは確かだぜ。
なにせこの辺を仕切ってる海賊の本拠地、ギャラルホルンもそう簡単に攻められる場所じゃねえよ」
「ふーん。俺達が乗ってた船は?」
「問題ねえ、岸につけてある。全員無事だ」
「なら良かった」
三日月が肩から力を抜いてベッドに沈み込むと、オルガは横の椅子にうなだれるように座ります。
「……」
「オルガ?」
「……すまねえ、ミカ」
膝に肘を置き、両手を目の前で組んで、オルガは顔を覆いながらその言葉を絞り出しました。
「何が?」
「他に何があるんだ、お前の……その左手」
「……ああ、罰の。オルガが謝ることない」
「そんなわけにいくか!お前の命が」
「謝るな」
三日月は強い語気でオルガの言葉の続きを制しました。
それは怒りではなく、彼の意志のかたまり。
「……ッ」
オルガを射抜く三日月の真っすぐな目に、彼の言葉に詰まります。
「こんなとこで死ねないからどうにかしろ、それだけ決めたら俺がやる。それでいいんだよ。
躊躇って立ち止まって死ぬなんて、それは許さない」
「……ミカ、お前が……そいつに食われるその時は」
オルガが眉をひそめて三日月に言葉を返そうとした時、
「あれ、三日月起きたの?」
とラフタがひょっこり顔を出しました。
「よかった、元気そうじゃん。
オルガ、姐さんが、三日月も起きてるなら2人とも連れて来いって。話があるってさ」
「待ってくれ、こいつは今起きたばかりで」
「俺は平気」
「じゃあこっち。ついてきて」
ラフタに案内されて三日月とオルガが狭い洞窟を進んでいくと、広い酒場のような広間に出ました。
部屋と同じく岩の壁に囲まれた空間は、ランタンが明るく灯し、並べられたテーブルではたくさんの女の子が賑やかに過ごしていました。
ラム酒や食べ物の匂いも漂っています。
皆が腰や脚に剣や武器を下げているところを見ると、彼女達は皆タービンズの海賊なのでしょう。
その一番奥の丸いテーブルにアミダが座っています。
「姐さん!三日月も起きてたから、一緒に連れてきたよ」
「ああ、ご苦労様。ラフタはもう……いや、一緒に聞いていきなさい」
「あたしも?何で?」
「いいから。ほらアジーも」
アミダの横に控え、黙って立っていたアジーが頷き、三日月達から見てアミダの左側に座りました。
「どういうこと?」と続いて座るラフタは右側です。
「オルガ、三日月も、そこに座りな」
促されるまま、頷いて三日月とオルガもアミダ達の正面に座りました。
「さて。クリュセは災難だったね。ギャラルホルンが遂にこんな辺鄙な群島まで押し入る日が来たか」
「昨日は助かった。礼を言うよ。だが、なんでクリュセまで来ていた?
アンタ達タービンズは何を知ってる?」
「ギャラルホルンがあの島を含めて群島を狙ってるって話なら、前から聞こえていた話よ。
お前達を逃がしたあの船が秘密裏に造られているということもね。
まさかクーデリアが島に残った、というのは少し驚いたけど……まああのお嬢ちゃんならその決断も理解できる」
「……俺達を助けた理由は」
「この群島に生きている者として、ギャラルホルンにいいようにされるのは我慢がならない、そういうことよ。
お前達を助けたというより、クリュセに易々と沈んでもらっては困る、といったところ」
「戦略上ってやつか……」
オルガとアミダ以外の3人は、黙って2人の会話を見守っています。
「タービンズもギャラルホルンは気に入らねえってことか……それで、今は俺達も値踏みされてるって話だろ」
三日月はオルガの横顔を見ました。
オルガの言葉にアミダはふっと表情を崩し、楽しそうに笑みを浮かべます。
「察しがいいね。その通り、お前達が何故クーデリアにこの群島の未来を託されたのか、その価値があるのか、興味があるわ」
「……なら、手を組まないか?俺達と。アンタ達だって単独でギャラルホルンと戦うのは無理だろ」
「……それならオルガ、お前はアタシに言わなければならないことがあるはず。
どうやってあのギャラルホルンの船団を崩した?ラフタから聞いたよ。その光は何だ。
クーデリアは自分の価値を知らない世間知らずのお姫様じゃない、それなのに何を差し置いてもお前達を逃がした。
その理由はその光だろう?それはつまりお前達どちらかの力じゃないかとアタシは考えている」
アミダと腹の探り合いをする中、どう説明するか、言葉を選びあぐねたオルガが口ごもる様を見て、三日月は
「オルガ」
と一言だけ口にしました。
その声に何かを決めたのか、オルガは「ミカ……ああ、見せてやれ」と頷き、三日月は満足そうに「わかった」と左手の手袋を外しました。
「あいつらの船は俺が消した。この紋章の魔法で」