幻想水滸伝Ⅳパロ―Ⅷ
ラズリルを、正確には三日月やオルガの傭兵団仲間を救い出すため、武器や食糧を整えながら船は全速力で海を走ります。
ガエリオから情報を得た日に三日月達が居た位置が悪く、急いでも8日はかかってしまう距離にあったので、
悪い意味では時間がかかり、良い意味では途中にある島で何とか戦う準備ができる、そんな状況にありました。
三日月の罰の紋章を見てガエリオが激高しそうになった日から2日経ち、あと一度補給に寄ったらラズリルへ向かう、
その位置まで近づいた日。
三日月はいつものように甲板の外で周囲の海を見渡し、立ち寄る島の近くにギャラルホルンの船がいないか警戒していました。
いつもは何人かが思い思いの方法で時間つぶしをする甲板デッキですが、今日は三日月1人……という所へ、サロンから出てきたラフタが声をかけます。
「あ、ねえ三日月。あの軍人、相変わらず?」
「ラフタ。うん、黙って飯食べてるだけ」
「ふーん」
三日月の近くの手すりに肘をついたラフタは、それだけ?と三日月に尋ねてきました。
「なに?」
「そんなほいほいしゃべるわけないか。三日月、あいつの誰だっけ、部下?を殺したんだっけ」
「うん」
「オルガもなかなかやるじゃん。わざわざ三日月を毎日ご飯運ぶ役にしなくてもいいのにって思ったんだけど。
見せつけた上にその仇本人から食事もらうとか、そりゃ戦意喪失するわよ。さらっとそんなことするの、アタシでもちょっと驚いた」
「オルガは間違ってない」
「違う違う、褒めてんの。陸の牢にぶち込んどくだけなら楽だけど、航海中に連れ回す捕虜って扱いがめんどくさいからねえ」
「そうなの?」
「そうだよ。三日月も何度も敵と戦ったら分かるって。倒して終わりのモンスターの方が楽って絶対思うから!
ま、とりあえずアンタやアタシのボスが優しさだけで突っ走る男じゃなくて良かったわ」
「俺はあんまり興味ないけど。オルガはオルガだ」
「うん、三日月はそれでいいんじゃない。
んー……アタシは、あのでっかいヤツにもちょっとだけ興味あるなあ。なんか珍しい感じがして」
「じゃあラフタが飯運べば」
「あ、それは三日月のお仕事じゃん。なんかまた言ってたら教えてよ」
真っ青な空を仰いで背伸びをするラフタは「じゃあ三日月、また後で作戦室でね」と手を振ってサロンに戻ってゆきました。
残った三日月が、そういえばオルガと作戦会議だったなとラフタの後を追うように一歩踏み出した時、
強い風が吹き抜けていきます。
思わず目を閉じて突風がやむのをじっと待ち、穏やかに戻った風の中で三日月が再び目を開くと、近くの島が見えてきました。
ラズリルと傭兵団の情報を集め、状況次第では一気に乗り込もうと考えている、最後の寄港先です。
あそこか……と三日月が青く広い海にポツンと佇む島を眺めていたら、ふと、一瞬で消えてしまったドルトの島のことを思い出しました。
そのドルト島が、ガエリオの言葉を浮かび上がらせます。
―部下の命を奪った紋章―
「……お前らだって、あの紋章砲で島1つ勝手に消し飛ばしたのに?」
ガエリオ達を捕まえる前から、ラフタやアジー達からギャラルホルンはそういう国だと話を聞いていました。
自分達は強い。
強いから、別の国を襲って奪うことが許される。
そう考えているのだと。
そう考える奴らも、自分が奪われる側になればガエリオのようにあれほど泣くのでしょうか。
そうは思えない、と三日月は思いました。
誰のことも大事ではないから、誰かを奪うことができる連中なのだと思っていたのです。
それが要するに、ラフタの言う「珍しい」という理由かもしれません。
しかし、自分には理解できない、と三日月は頭をふりました。
その珍しさがどういうものか、それはきっとオルガやラフタのような人間が答えを出してくれるだろう。
そう結論を出した三日月は、もう一度綺麗な海を見渡して、満足してからサロンに入っていきました。