幻想水滸伝Ⅳパロ―Ⅵ

「島の、皆を、ありがとうございました!」
息を切らして岩肌に手をつきながら、クーデリアは三日月にお礼を言いました。
フミタンがクーデリアの背を軽く撫でながら、三日月やオルガの方へ押しやります。

「フミタン?」

「時間がありません、お2人と共にお早く」

「いいえ、私は行きません。年老いた人や病人、クリュセから動けない人もいるのよ。
フミタン昨日も言ったでしょう、私が島を離れてどうするの!?」

「私も申し上げました。貴女が無事でなくてどうするのですか!」

「そうは言っても!」

「今ごちゃごちゃ言ってる暇はないだろ!?どうするんだ、アンタのこの先の計画は」

気をもむオルガはいら立ちを隠さず、クーデリアとフミタンの言い合いを遮ります。

「……ええ本当に、ああ、そうでした。ごめんなさい。これだけでも私からお話しなければ。
三日月、オルガさん、お2人に預かってもらいたい物があります。これを」

オルガに手渡されたのは、小さな袋と、四角い金色の印章でした。
資金か?としか思いつかないオルガは、意図が分からずクーデリアの顔を見ます。

「それはクリュセの主の証で、全ての承認を行う際に用いられる金印です。
今後も色々な人や島に助力をお願いする時、これが必ず役に立つはずです。どうかこの証と共に、群島をお願いします」

「……こんなモンより、アンタが顔出す方が」

「ふふ、群島に古くから生きる長達の中には、私などよりこの小さな金の印章を信頼する方も少なくないんですよ。
私がこれを託したのだと、例えクリュセが占領されても私の心は折れないと、皆に告げて回ってください。
大丈夫、すぐに殺されたりはしないように考えがあります、だから―」

そこで彼女の言葉は途切れ、代わりに「危ない!!」と叫びオルガとフミタンを強く突き飛ばしたクーデリアの姿は、突然崩れてきた岸壁の激しい岩なだれによって遮られ、見えなくなってしまいました。
ギャラルホルンの砲撃のせいで岸壁全体が不安定のようです。
大きな音を立て、たくさんの岩や土が海の中に飲み込まれていきます。

「姫様!!」

オルガに受け止められたフミタンはが土煙を払うように一歩踏み出すと、そこにはもう道がありません。
しかしクーデリアはなんとか岩なだれ巻き込まれずに済んだようで、途切れた道の向こう側に倒れこんでいました。

肩をほっと下ろしたフミタンは「今、そちらへ」と言いますが、「来てはダメ!!」とクーデリアが遮りました。

「脱出する手段もこれからのことも、フミタンが全て私の考えを分かっていますので、後は彼女から聞いてください」

「クーデリア、俺ならアンタを抱えて」

三日月も一歩踏み出しますが、オルガがその肩を掴んで制止します。
クーデリアも首を横に振りました。

「行ってください三日月」

非常時だとか時間がないだとかそういったことを三日月は一瞬全て忘れ、
分厚い雲が晴れて顔を出した月明かりに照らされる中、立ち上がって笑顔を浮かべるクーデリアに、
(なんか綺麗だな)
と思いました。

「貴方達はクリュセと、この群島の希望なんです。
勝手なお願いですが、どうか、貴方の強い心が、ギャラルホルンに屈しないよう―」

「クーデリア、後ろだ!!」

「え……っ!?」

2人のギャラルホルンの兵が背後に迫ってきたことに気付いたオルガが叫び、
三日月が剣を握って踏み出そうとするも、それは敵兵が彼女に剣を振り上げる動作とほぼ変わらないタイミングで、いくら三日月でも間に合うわけがありません。

クーデリアが後ろを振り向き、咄嗟に護身用の剣を鞘ごと掲げ頭を庇うのを目にして、
「お前ら……!」と怒りを発する三日月の足を止めたのは、
「来るんじゃねえ三日月!!」と、よく知った男の叫ぶ声でした。

「え?」

キン!と気持ちのいい音が鳴って敵の剣が弾かれたかと思えば、あっという間に敵兵2人が地面に倒れてしまいました。

「言っただろ!?オルガと三日月が留守の間の番犬は任せとけって!」

「シノ……!」

仲間の姿に、三日月が剣を握る力も緩みました。
オルガも彼らの無事を喜びます。

「ユージンも!お前ら無事だったのか!」

「当たり前だろうが!王宮から街まで遣いに走ってただけで……ていうかお前が遅いんだよ、帰ってくるのも全部!ほらさっさと脱出しちまえ!」

「お2人とも……ありがとうございます……!」

シノに手を借りたクーデリアは立ち上がり、両側を庇うように立つ2人へ、それぞれに感謝を示しました。

「いいってことよ。最高のタイミングでお姫サマを助けるなんて男の夢だしな。
オルガ!俺とユージンはこの島に残るぜ!」

「シノ、何で……お前ら、いいのか?」

「うーん、ほら例えばだ、ここがあの傭兵団だったらどうなってもあんま気にならねえけど、
この島は皆よくしてくれたいいとこじゃねえか。少しくらいはまともな兵も残ってないと、投降した後の扱いがどうなるか……な、ユージン」

「……オルガお前、クーデリアだけ残して出てったら気にすんだろ。だから、仕方ねえから任されてやる!」

「早く助けに来いよ!」と笑い飛ばす言葉に仲間の気遣いを感じ、オルガは「すまねえ、頼んだ」とだけ言い残し、三日月と雪之丞を促して岸壁を進んでいきます。

フミタンは最後まで、向こう岸のクーデリアに向けて何か言いたい様子ですが、
「私は1人じゃないわ」
と笑う彼女の顔を見て、主に背を向け三日月達を追っていきました。

全員がその入り口の向こうに入っていくのを見届けたクーデリアは、王宮へ向かう方へ早足で歩き始めます。

「急がなければ……私はこれから投降するつもりです。
無駄な犠牲を出さないため、そのために島の皆に抵抗しないでほしいと既に伝えて回りました。
お2人にはごめんなさいね……こんなことになってしまって」

「気にすんなって。もし俺らとあいつらが逆の立場でも、オルガと三日月は絶対こうしてるさ」

こんな場面でも、シノはその持ち前の明るさで苦難を吹き飛ばすように、軽い足取りで先頭を歩いていきます。

「俺はそんなガラじゃねえけど……まあいい、ギャラルホルンに追っかけ回されるあいつらの方が、
この先色々しんどいだろうし」

「ええ……でも私は信じていますよ。もちろん、お2人も」

「ていうか、あのやばい紋章砲を撃ってこないってことは、あれは動かせないのか?大したことないな」

シノの半歩後ろを歩いていたユージンは、クーデリアから寄せられた信頼への照れ隠しか、
ギャラルホルンの侵攻は案外普通のやり方だなと口にしました。

「まあ、本当ですね、あの兵器の射程が明確、且つ動かないのなら十分勝機はあります。
三日月達と今度軍議を開く時には、それを踏まえて考えなくては」

「なんだ、なら三日月に一気に攻め込ませたら楽勝だろ?」

ユージンに続いてクーデリアも、シノも、そう遠くない未来と信じて、戦いの図を思い浮かべます。
そうして3人は、火の手が上がる庭園へ向かって走っていきました。

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坏乃

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